論文紹介

Last update: 8 Sep 2000


Journals

  1. The History of the Comic Supernova Rate
    Derived from the Evolution of the Host Galaxies

    Chiaki Kobayashi, Takuji Tsujimoto, and Ken'ichi Nomoto, 2000, ApJ, 539, 26-38
    ADS astro-ph/9908005 Gzipped PostScript

    最新の観測的制約をみたすように楕円銀河と渦状銀河の進化モデルを構築し、各銀河の現在の超新星頻度を再現し、それらを足し合わせて宇宙の超新星頻度史を予測した。

    Kobayashi et al. 1998 で提唱したIa型超新星の金属量効果を導入して、四種の渦状銀河及び楕円銀河について、最新の観測的制約をみたす進化モデルを構築し、観測される現在の超新星頻度を説明することで我々のIa型超新星モデルを検証した。
    (1) 観測される渦状銀河のII型超新星頻度は星形成率を反映し、現在では晩期型ほど大きいが、Ia型超新星頻度は晩期型から早期型までほぼ一定値を示す。 Ia型超新星の寿命は 0.5 Gyr と短いものと 20 Gyr と長いものが混在し、前者の頻度は晩期型ほど大きくなり後者は小さくなる。この二つの効果が相殺した結果、観測値を再現することができる。
    (2) Ia型超新星には 20 Gyr と寿命の長いものがあるので、楕円銀河で10 Gyr以上前に星形成が止まっていても、観測される現在のIa型超新星頻度を再現することができる。
    こういった楕円銀河と渦状銀河のモデルを足し合わせることで宇宙の超新星頻度史を予測した。結果は以下。
    (1)渦状銀河では、星形成が連続的なので、遠方では金属量が小さくなり、z=2 あたりで [Fe/H]<-1 になるので、Ia型超新星頻度が急激に減少する。
    (2)銀河団の楕円銀河では、色等級関係から示唆されるように、星形成がバースト的で金属量が一気に上昇するので、z>2 でも [Fe/H] は高いままで、Ia型超新星は発生する。
    (3)フィールドの楕円銀河では、形成時期が銀河団より遅れているという観測的示唆もある。そうならば、金属量の増加は銀河団より遅れ、渦状銀河同様、z=2あたりでIa型超新星頻度が減少する。また、この場合の宇宙の大局的星形成史は、z=3 付近にピークをもち、最新の観測と一致する。

    ※修論シリーズその2で、シリーズのメイン論文。遅れに遅れ、99年8月投稿、00年3月受理、8月出版。

  2. Origin of Color Gradients in Elliptical Galaxies in the Hubble Deep Field North
    Naoyuki Tamura, Chiaki Kobayashi, Nobuo Arimoto, Tadayuki Kodama, & Kouji Ohta 2000, AJ, 119, 2134-2145
    ADS astro-ph/0001174

    遠方の楕円銀河の色勾配を初めて観測的に示し、現在のものと理論的に比較することで、"楕円銀河の色勾配の起源が年齢でなく金属量である" ということを明らかにした。

    ハッブル・ディープ・フィールドにある z=1 までの10個の楕円銀河の色勾配を解析した。7個の楕円銀河は中心ほど赤いという色勾配を示し、その勾配は近傍の楕円銀河のものとほとんど変わらなかった。他の3つの銀河は中心部に星形成の兆候があり、普通の楕円銀河とは異なる進化を遂げたものだと考えられる。
    銀河の球殻ごとに、銀河風の発生時刻を変えて金属量を変えたモデルと形成時期を変えて年齢を変えたモデルを構築し、色勾配の進化を予言した。色勾配が年齢起源なら、色勾配は急激に進化し、遠方では勾配が急になる。金属量起源なら、進化は小さい。観測は、金属量だけを起源とするモデルと非常に良く一致し、年齢だけを起源とするモデルは完全に棄却された。

    ※卒論シリーズ補足編その1。99年6月、京大に出かけ、田村くんと4日で書いた論文。8月投稿、00年1月受理、5月出版。

  3. Gradients of Absorption Line Strengths in Elliptical Galaxies
    Chiaki Kobayashi, & Nobuo Arimoto 1999, ApJ, 527, 573-599
    ADS astro-ph/9907091 Gzipped PostScript

    楕円銀河の形成進化を解明するため、楕円銀河の吸収線勾配の観測データを集積し、楕円銀河の金属量勾配と、銀河の他の物理量との相関関係を調べ、(1)金属量勾配は他の物理量と相関しないこと、(2)銀河全体の平均の金属量は質量に依存することを示した。

    楕円銀河の形成は、単一のガス雲の散逸的重力収縮説と、渦状銀河や矮小銀河の衝突合体説とが拮抗している。一般に、前者では金属量勾配が形成され、後者では破壊される。
    楕円銀河には吸収線勾配を観測した論文が多くあるが、サンプルが少なく解析法も異なるため、混沌としていた。そこで20論文133銀河187データを集積し、精度の高い80銀河を抽出して、金属量勾配と他の物理量との相関関係を解析した。結果は以下。
    (1)楕円銀河には典型的に dlogZ/dlogr=-0.3 (半径が十倍になると金属量は半減)という金属量勾配がある。金属量勾配は他の物理量に相関しない。
    (2)勾配も考慮して平均化した銀河全体の平均の金属量は、典型的に <[Fe/H]>=-0.3 つまり太陽組成の半分である。平均の金属量は銀河の質量に相関し、明るい銀河ほど金属量が高いという質量-金属量関係は、銀河の中心部だけでなく銀河全体にもあてはまるグローバルな関係である。
    (3)金属量勾配のばらつきの起源は、ダスト、年齢、衝突合体、初期条件の違いなどが考えられるが、いずれかは明らかでない。

    ※卒論シリーズその1。96年6月に始め、投稿まで苦節2年、受理までまた1年、99年12月に出版された、全27ページの大作。

  4. Evolution of Dust Extinction and Supernova Cosmology
    Tomonori Totani, & Chiaki Kobayashi 1999, ApJ, 526, L65-L68
    ADS astro-ph/9910038

    宇宙論パラメータ決定におけるIa型超新星のダスト効果:"普通に進化する普通の銀河内のダストで、色超過が色の誤差に紛れるくらい少しだけ、Ia型超新星が暗くなる" 効果を見積り、Ia型超新星を用いて決定された宇宙論パラメータを再検討し、宇宙項が必ずしも必要でないことを示した。

    Ia型超新星は明るく明るさが比較的均一なので、宇宙論パラメータを決定する際の標準光源として用いられる。その結果、宇宙項なしでは閉じた宇宙も開いた宇宙も棄却され、宇宙項が不可欠であることが示された (Perlmutter et al. 1999)。
    しかしこの手法にはいくつかの問題点が指摘されている。ダスト効果については、観測グループは遠方のIa型超新星の色が近傍と変わらないことから影響ないと述べているが、色の観測誤差やKコレクションの誤差は小さくなく、影響ないかはわからない。
    そこで、銀河内のダスト量はガスの量と金属量に比例すると仮定し、星間吸収量の進化を銀河の種類毎に計算し、銀河毎のIa型超新星発生頻度で平均化して、典型的な星間吸収量を予測した。
    その結果、遠方 (z=0.5-1) では、Ia型超新星は典型的に 0.1-0.2 等 暗くなっている。これを考慮すると、宇宙項は必ずしも必要ではなく、宇宙項なしの開いた宇宙でも観測と矛盾しないことを示した。

    ※99年6月、国立天文台助手 戸谷さん と会話中に降って湧いた論文。8月投稿、9月受理、12月出版。

  5. The Origin of Diversity of Type Ia Supernovae and Environmental Effects
    Hideyuki Umeda, Ken'ichi Nomoto, Chiaki Kobayashi, Izumi. Hachisu, & Mariko Kato 1999, ApJ, 522, L43-L47
    ADS astro-ph/9906192

    Ia型超新星の明るさのわずかなばらつき:"(1)明るいIa型超新星は渦状銀河では起こるが楕円銀河では起こらない、(2)銀河の中心ほどばらつきは大きくなる" という観測事実を、Ia型超新星の親連星系の進化と金属量効果を用いて初めて説明した。

    白色矮星の炭素と酸素の比(C/O比)が大きいほど、Ia型超新星は明るくなると考えられる。白色矮星の進化計算によると、白色矮星は小さいほど、C/O比は大きくなる (Umeda et al. 1999)。親連星系の進化計算によると、小さい白色矮星が爆発するには、伴星は大きく短寿命でなければならない(Hachisu et al. 1999)。金属量が小さいと、親連星系の種類が少なくなる(Kobayashi et al. 1998)。
    (1)楕円銀河とは違って渦状銀河では星形成が継続中なので、質量が大きく短寿命の伴星と質量が小さくC/O比の大きな白色矮星から、明るいIa型超新星が発生する。
    (2)銀河には動径方向に金属勾配があり、中心ほど金属量が大きいので、中心ほど親連星系の種類が多くなり、Ia型超新星の明るさはばらつく。

    ※修論シリーズ応用編。ボスの問題提起に野本研PD梅田さんが答えた論文。99年4月投稿、6月受理、9月出版。

  6. Low-Metallicity Inhibition of Type Ia Supernovae and
    Galactic and Cosmic Chemical Evolution

    Chiaki Kobayashi, Takuji Tsujimoto, Ken'ichi Nomoto, Izumi Hachisu, & Mariko Kato 1998, ApJ, 503, L155-L159
    ADS astro-ph/9806335 Gzipped PostScript

    Ia型超新星の発生頻度における金属量効果:"低金属量([Fe/H]=logZ/Zsun<-1,太陽組成の十分の一以下)の星からはIa型超新星は起こらない" という効果を、Ia型超新星の親連星系の進化シナリオをもとに初めて提唱し、銀河系の化学進化を用いてこれを検証し、さらなる検証法として宇宙全体のIa型超新星頻度史を予測した。

    Ia型超新星の起源はまだ明らかになっておらず、Ia型超新星を用いて宇宙論パラメータを決定したり宇宙の化学進化を解明したりするには、Ia型超新星の起源を明らかにすることが不可欠である。
    Ia型超新星をひきおこす親連星系の進化については、白色矮星同士の衝突合体が起因だと考えるシナリオ(DDシナリオ)と、白色矮星への伴星からの質量降着が起因だと考えるシナリオ(SDシナリオ)とが対立していた。
    (1) 白色矮星と小質量星からなる親連星系の進化計算によると、Ia型超新星爆発を起こすには、白色矮星から星風が吹き、伴星からの質量降着が安定化される必要があり、このためには金属量は [Fe/H]=-1 より大きくなければならない。
    (2) この金属量効果を導入すると、他のIa型超新星シナリオ(DDシナリオ,金属量効果なしのSDシナリオ)では説明できなかった太陽近傍での化学組成の進化([Fe/H]に対する[O/Fe]の進化)を説明でき、QSO吸収線系や銀河系ハローのII型超新星的な化学組成を無理なく説明できる。
    (3) また、観測された宇宙全体の星形成史を用いると、遠方(過去)では宇宙の金属量は低くなり、z=2 あたりでIa型超新星頻度が急激に減少することを示した。このことからもIa型超新星の金属量効果を検証することができる。

    ※修論シリーズその1。97年6月、三鷹は国立天文台の辻本さんの元へ送り出され、苦節9ヶ月後、駒場の鉢巣さんと加藤さんの結果をじっとにらんで私が思いついた金属量効果なのでした。思いつき後3ヶ月で投稿し、1週間で受理され、98年8月に出版された初論文。


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